焚き火/殿岡秀秋
火が
材木から
顔をだしたり
ひっこんだりする
勢いがつくと
赤い鬼のように
筋肉質の胸が
出てくる
鬼に熱い息をふきかけられて
からだの前半分は
服の下まで暖かくなる
背中は木枯らしに震えている
大人が鬼の口に
材木を食べさせた
ゆっくり大きく広がった口が
古木を飲み込んでいく
小学生のぼくは反転して
背中や腰を鬼に煽ってもらう
暖かさがお尻にまで伝わると
このままここにいたくなる
もう学校に行かないと
遅れるよ
と大人の声がする
わかっているけど行きたくない
暖かさを振りきって
凍てつく道を歩いて
寒い小学校に行くより
ここで暖まっていたい
半世紀経って
大きな寺の山門をくぐるとき
仁王の赤い腹のなかに
うずくまる子どものぼくがいるのを見つける
耳をすましている子どもに
ぼくの胸にもどるようにいうと
うなずいて飛びこんでくる
ふと胸が温かくなる
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