死霊の夜/salco
 

御覧なさい
じきここを通る新聞配達
闇に目を凝らすでもなくスクーターで
見慣れた道を流しながら今日はふと
うなじを撫でた風に鳥肌が立つ
指の形を感じたもので
肉の朽ちた捺印を

こんな夜は
今生に日の浅い赤ん坊に
奥座敷で独り寝の年寄りに
気をつけておやんなさい
冬が来るきざはしの
これは渺茫(びょうぼう)の風ではない
報せではない

死者は
いや、霊は退屈なのですよ
それで百年も千年も妬んでいる
生に浴している者を
在って在るを有する者を
小さな燈芯やか細い焔は
連中の腐った息でも摘めるのでね

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