彼女の海/ゆえ
飛沫が冷たく飛び回る、橙から深い青に変わっていくグラデーションの下で。
静かに流れ続ける。僕と彼女の存在する痕跡が、透明な潮鳴りによって覆われていく。
海へ行こう、と言ったのは彼女だった。
別段彼女に何かあったわけではない。それは事実であるはずだし、事実であって欲しいと願っていた。
そうでないならば、一体何が、無垢な存在に作用しているというのだろう。
突然黙りこくってしまった彼女に、戸惑いながらも視線を向ける。
ざあざあと響き続ける音の中で、彼女は立ち止まっていた。
ああ、
こういう風になってしまうのは、今に限ったことではないの
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