なくした傘/はだいろ
 
今まで、いったい、
何本の傘を、
なくしたことだろう。
安いビニール傘も、
奮発した1万円の傘も、
気分を変えた緑色の傘も、
花開くプラネタリウムの傘も、
みんなみんな、
どこかでなくしてしまった。

電車に置き忘れたこともあっただろう。
飲み屋に忘れてきたこともあっただろう。
やめたバイト先に置いてきて、
もう取りにいけなくなってしまったことも、
あっただろう。
いったい、
あの傘たちは、
今日の雨に、
どこでどう、ひらいているのだろうか。

とっくに、
燃えないゴミの日に、
出されてしまったのかもしれない。
バラバラに踏みつけられて、
捨てられてしまったのかもしれない。
だけど、
なんとなく、
あの日なくしてしまったぼくの傘に、
雨がパツパツと降り注ぐ音が、
耳に届くような、妙にさみしい夜だ。

ぼくのなくした傘を今、
世界のどこかでさしかけているひとが、
これから会いに行く誰かと、
ほんのすこしだけでも、
あたたかい会話ができるといい。
傘のない日に、
ぽつんとそう願う。






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