兎/岡村明子
 
赤すぎる飴
兎の目だった

穴ぼことなった眼窩から
こどもの指がのぞく
おそろしいぬいぐるみ

甘い香り漂う
赤すぎる飴
飴に透かして見た景色は
現実との連続を失って
兎の穴ぼこに落ちていくようだった

指先が何かを欲しがるように円を描くのが耐えられなくて
私は飴をズボンのポケットにつっこむと
歩き通して兎の視線から逃げ続けた
右へ
左へ

なぜ名前をつけてやらなかったのだろうか
飴の中にこどもの自分
兎を抱いて唄っている

うさぎ
うさぎ
なにみてはねる
十五夜おつきさま
みて
はねる

青ざめた月の兎に
充血した目
ぬいぐるみも
赤すぎる飴も
もうなかった


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