ヒラノ/wako
 
正面から対峙すると
恐怖が態度にあらわれるので
無関心を装って
彼のエリアを侵害してみた

背に視線が突き刺さる

敵意のこもった目の奥に
彼の過酷な過去を想像する
その威嚇の表情に
選択の余地さえなかった不運を
悲しむしかない

私は時を味方につけて
ジワジワと距離を縮めていく
彼はとまどいながらも
ジワジワと後退する
手をさしのべると身をかわし
無視をすると目であとを追う
他愛のない駆け引きの日々を
コツコツと積み上げて
彼のエリアは崩れていった
私はこんなふうに
彼との信頼関係を築き上げていった
今では彼は
会うたびに喜びを爆発させる
コワモテの顔をクシャクシャにして
散歩に行こうとすり寄る

空腹を抱えて彷徨った大阪の街の記憶は
まだ残っているだろうか
向けられた好意にさえも牙をむいて
鼻にシワよせて威嚇した過去は
もう薄れただろうか

平野区で保護された野良犬
ヒラノ
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