白夜/yozo
 
眠れなく明けた夜などめずらしくもないのに
今日はやけにきみの声が頭蓋に響く
清らかに白む窓の外は
寒くなる毎に湿っぽい空気を孕んで
対岸を埋める高層のマンションの頭上を霧で消してしまう
こんな風に煙っていけるなら
もう少し生きていく価値があるかもしれない
冷たいガラスに額をつける
舞い上がり空に馴染んでいく鳥の群を見上げる

届かない言葉を投げつける
飲み込んだセリフで胸の奥をつく
静まり返った部屋で
僕達は結局おなじ事をしている
トイレに起きだす君の気配に
ただ、一人で居られないだけなのかもしれないと思った

透けた象牙色をして生まれた蝉は仄暗く瑠璃に光った
父の骨はどれも青白く恍惚とそこにあった
いくつかの低気圧は
熟れて重たい夏の記憶を少しだけ振らしてくれるだけだった

眠れなく明けた夜など本当は一度もなく
僕はただ、君と一緒に白い夜を歩き続けていくのかもしれない
それでもいいだろう
きみのアクビ
もう少し眠るのだろう

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