高い木の上の都市の記憶/オイタル
千年を巡ってたどり着く真昼
孤独に鳴るシンバル
居眠りする太陽
大きなあしなが蜂が
買い物帰りの
バイクの音を鳴らしていく
高い木の上で揺れる
一枚の古びた葉の付け根から
葉先に向けて
薄い砂と濃い服従とでできた錆びた都市が広がる
葉先から離れてそよぐ
一枚の若々しい葉に向けて
目鼻立ちのはっきりしない冒険家が
光る白い糸を垂らす
根元が細かく震えるのは
どうかやめてと懇願する一人目の冒険家の妻と
けして口をはさまぬ二人目の冒険家の妻の
嗚咽
夜近く
幾たりかの人類が眠りを
噛み砕いてほおばり
ほおばって せせりとって
立ち上がったり また眠ったり
それから少し
手を振ったり
葉の表面はもう
いささかの眠りでは 眠れない
消えない灯火が葉裏をかすませ
多くのものが 二人の冒険家に
激励と罵倒 痛恨と嫉妬の声を
贈る
やがて光る白い糸は 沈黙の中で
静かに切れて ゆらり葉先を離れ
狙われた猫が前足を十字に重ねて
遠い時間を眠るその鼻先の水面に
ゆっくり ゆっくりと
着水してゆく
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