お化け煙突/殿岡秀秋
 

窓に巨人は映らない
頼りにするものが見えない

こうして生きて何になるの
と学校からの帰り道に尋ねても
富士山の方を向いて応えてくれない
ぼくは彼らを見あげなくなった

突然巨人の声が
授業中のぼくの耳に聞こえた
倒されるまで
立っているだけさ

古くなった火力発電所の煙突は昭和三九年に壊され
千住の街に長い影が消えた
残骸の一部が川に近いよその小学校の校庭に
滑り台として残された

大人になってふと見あげると
電車の車窓から
ビルとビルの間に浮かぶ
黒い服の四人の巨人が見える

倒されるまで
力を抜いて立っているよ
とぼくが語りかけると
雲の帽子をかたむけてうなずく



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