壺中の天/マチムラ
 
君の眼はいつも遠くをさまよっている
夢の中を旋回するように生きる君の日常
その頃僕は断頭台の上で道化を演じるんだ
そんなの誰も見ていなくてね
すると君に手をひかれていくみたいに
遠く 遠くなって
隣に座る友人の名前すら思い出せなくなる
青と灰の満たす白い陶器のような午後を
僕の指をとってなぞらせる君の手
僕がひどくたわんでしまうたびに
君はこうやって古い井戸から汲んだ冷たい水を
僕のたわんだ部分にそそぎ入れる
そうして僕は君のリフレインばかりを聴く
使い古したなぐさめの子守唄ばかり
そうして僕は眠る



君の隣で僕は鯨になり、鳥になり、貝になる

僕は唄う、僕は囁く、僕は沈黙する

全ては解き明かせないと泣きながら

君にもっと見せてほしいと言う

壺中の天を



僕はどうやら眠りながら泣いていたみたいだ
まるでぬるい湯に浸かって迎えた朝のように
やるべきことばかりの正しい日常が
逆に僕を確かめている




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