お帰りの少年/オイタル
 
る の形の漏斗へと滑り落ちていくように
ぼくは明るい駅へと吸い込まれる
窓に青蛙が張り付く
濡れた松葉が張り付く
滲むいくつかの家の灯りが
黒い木立に十字を掛けて
すいと横に流れたかと見る間に
夜空をたたいて 電車が降りてくる

お帰り

発光する箱の中から
銀粉を被ってぼんやり下りてくるのは
島田さんの奥さん
薄手の半袖のシャツを羽織って
静かに会釈を滑らせて行った
あわてたぼくのお返しは 夜へと吹き飛んで
島田さんの奥さんと一緒に
一か月前のさびしい出来事に
さらわれていった
それから 大きな
風の包みを背負った
名も知らぬばあさんが滑り去った

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