波打際/水瀬游
い香り
火は消えて極彩色は灰色に 肺は灰色 香りは灰色
がらんどう 誰の煙かも分からずに 私一人の野辺は香も失せ
野は緑 足元のみが鮮やかに 果てはあるのか霧深く 白
忘却の彼方に消えた私の名 海に揺られた以前の記憶
涙雨降る街は眠りの内に沈む 十数えたならさようなら
【引き潮】
光の無い 出口の消えた下水道 腰まで昇った黒色の水位
気が付けば錆の匂いも消えうせて 波間は黒く無為に揺られる
暫くは波の音すら聞こえずに無為に安らげ 眠りも深く
恐ろしき夢も去りゆく引き潮に目覚めてみれば幾許もなし
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