波打際/水瀬游
【波打際】
恐ろしき夢の波打つ水際に幾歳月か浸されてのち
空は黒 月は蒼白 水は黒 他には私が一つ浮かぶのみ
楼閣は空を優雅に遊泳す 伸びる廊下の果ては砂漠か
鹿の角生やした犬が水辺から呆けた顔で見下ろしている
霧がかる私の住まうこの町に居た人々は もぬけの殻
揺らめいた向こうの影は人間か 振り向いた女に表情は無し
目の前の女の頭が歪んだと思えば私を咀嚼していた
【波間】
蒼く照る濡れて艶めく黒い肌 深く巨大におどろおどろし
縞模様 芝生も空も白黒と縦に引かれて等間隔
絶え間なき金切り声に耳塞ぎ 逃げ惑えども鮮烈なまま
野辺の煙 極彩色に棚引いて肺胞を満たす甘ったるい香
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