闇の中に/折口也
開きかけた、その唇の奥の闇の中に
あなたは何を押し止めたのだろう
流星群を期待してベランダで見上げた夜空の下で
私は見つけられなかったね、と
それしか言えなかった
夏の湿り気をおびた風の中に
あなたはため息をはく
神話さえ今は夢の幻想のように
その耳に届いていない
私はじっとあなたの眼の光景を見た
部屋にもどって明かりをつけると
ガラスごしの夜空は
照明に反射して何処か遠くへ
見失ってしまった
あなたはテーブルに静かに頬杖をつく
あなたの闇の中へ入ってゆけるなら
そこに散らばる言葉を拾いに行きたい
何かを押し止めるその哀しさを
私も感じていたいから
それがほんの細部だとしても
今夜、流星は現れなかった
夏の星座が燦然と、綺麗でも
あなたは何かを祈願したかったのかもしれない
だからそんなにも無口でいる
私もしばらくそれに付き合おう
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