彼/非在の虹
 
海を埋め尽くす無数の海獣
その移動に海はおののき
激しく毛羽立つ

逆巻く海鳥の交尾
海獣の胴震いに振り落とされもせず
雌鳥は厚い皮膚の皺の狭間に産卵する
そして独身ものは空中を埋め尽くす

   これは彼の記述だ
   彼にはおよそ知らぬ生き物はいない
   彼を知らぬ生き物もまたいないのだ

   彼はそれを食べる
   それが骨だけになった時
   始めてそれは彼によって名付けられる

夜の森林が成長してゆく大音響
植物のなまめかしい震え
飛び交う光は
空の星がいっせいに落ちたかと見まごう

獣たちのうなりが街へ届き
森の獣たちの臭いが町にまで流れ
人々は眠れずペットたちは騒ぎ
森林が街へなだれ込む日を恐れる

   彼はその日を知っている
   いつ生き物は産まれるのか
   いつ生き物は滅ぶのか
   陽の外で
   軽々と命を越える
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