フネ/yumekyo
 


やがてこの 巨大な 鉄のフネは
改修に改修を重ね 艦上構造物は原形を留めぬほどに複雑となった
罐炊きの少年は いまや白鬢白髪の老人であり
ありとあらゆる矩形を盛りあわせた様な艦橋の上層部に
快適な一部屋をあてがわれて暮らしていた
出航以来船上の人で 毎日欠かさずつけていた日記は
ここ十年 いや 十五年ほど 筆を進めるのに苦労している
純白の三等船員服を着て
甲板や艦橋の下部をキビキビと動き回っていたはずの若者たちの姿が
見えなくなって久しい
様子を見たくて艦橋の麓まで下りたくても
目もくらむほどに高い部屋の位置から階段で降りるには足がすくむ

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