アインシュタインの罠/ゆるこ
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うちのトイレにはアインシュタインが住んでいる
排泄する度べろべろと舌を垂らしながら
私を蔑んでいる
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私が眠りにつく前に
息子の顔に二、三度キスをするのだけれど
息子の顔が浮腫んで膿まみれになったのは、多分アインシュタインの所為だ
息子は彼を知らない
知らないのだ
だからキスが出来ない
いつまでたっても、出来ないのだ
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夜が始まる前に私はハサミを用意する
日が落ちるのと同時に溜まり出す油膜に包まれるまえに
私はハサミを振り回すのだけれど
街は私を無視する
私はこんなにも、無垢なのに
そうして涙をふたつほど零してから
またハサミを振り回す
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多分、アインシュタインは知っている
私の恐ろしい事や悲しみの秘密
それを全て丸呑みにして
トイレでべろべろと世界を笑っているのだ
べろべろと、
うちの家のトイレには
アインシュタインが住んでいる
排泄する度べろべろと
私を 蔑んでいる。
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