線香花火/nonya
 

逃げ場をなくした熱気が
重く澱んでいる夜の底で
線香花火に火をつけると
涼やかな光の飛沫が
覚めやらぬ地面にほとばしる

しつこく素肌に絡みつく
湿り気を含んだ風の端に
弾き出された光の雫を
ぼんやり眺めているうちに
意識は過去へとさかのぼる


  消え惑う仄白い煙と
  後ろめたい火薬のにおい

  汗ばんだ細いうなじに
  頼りなげにはりつく後れ髪

  華やかな光に揺らぐ
  君の横顔からは微笑みさえ消え失せて

  青白く縁取られた
  ふたりの影は闇の重さに耐え兼ねて

  漂う終わりの予感は
  告げるべき言葉を飲み込ませて

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