[:trip/プテラノドン
バスが停車するたびに
バスガイドが代わる代わる乗り込んでくる。
口元に引き寄せたマイクから
日本から海外まで。観光地から
狭い路地から、台所から、寝室から
行くこともない土地の話を
そこに居るかのように話しかけてくれる。
中には流暢に外国語で話す娘もいたし、
そうでなくても、そこに住んでいる人たちの
生い立ちまでは想像力は及ばない。
無関心な目で頬杖をついて黙っていると、
「窓の外の景色はどうですか?」
と聞いてくるが、カーテンは開けなかった。
真夜中だったから。
座席を倒して、
ビーチに寝そべる自分の姿を想像してみる。
バスガイドは僕の背中一面にオイルを塗ってくれる。
日差しが身体を焦がす。望むところだ。
途中なのか、終わりなのか。
僕は標識を見つけなくてはならない。
幽霊からの手紙かもしれない。
おおかた、事が片付いた
ならば歩く必要なんてなくなる。
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