ノイズ/salco
ょっと。こっちが先なんですけど」
チェッカーの女は後ろの客を精算している。目の前に立っているのにシカ
トされて、ふと気づいた。このおばはんには聞こえていないのだ。
あたりを見回すと、何事かとこちらを見やる人もいない。後ろの人がかご
を抱えて、立ち淀む私を追い越して行く。一瞥もなく。
ああ、そうだった。昨日もここで思い出したのだっけ。
財布は確かに持っている。手触りも変わらない。お金も多分。ただ、黄色
のかごなど私に持てはしないのだった。ポテトチップスをほおばり、ドラム
スティックを噛みちぎることも、炊飯器を空にして喉に指を突っ込むことも
できないのか。
それなのに、お腹が空いてたまらないのだ。駆られ続けている。毎日、毎
日、毎日だ。毎日なんてもうありはしないのに。
私だけが残っている。排出され残っている。防犯カメラに幽かな幽かなノ
イズが出るだけなのに。
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