今は昔/石川和広
 
日差し
二月


それは
それは
大きな人でした

すごくキャップが似合っていて
つばの角度が、あの人の顔を
すこし横切るけれども
なにも
なにも

その表情を隠し立てしなかったから

濃い目の鉛筆で、薄く塗りつぶしたようなコメカミの
ほくろもやわらかいから

あの人のことがかえって

きらいになったのかも
しれない


もう
むずかしいのです
あの人が食堂を向かう廊下に
無表情に近い、あらわさで
足をすすめる瞬間が

わたしには
嘔吐してしまうような
本当に
虫が
蟻みたいな
小さい虫が
わたしの
目を覆う

恐ろしい

こんなことって
笑われるんだけど
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