自転車で日暮里駅まで/はだいろ
 
商店街も夜の十時を過ぎると、
シャッターががしゃんと下りていて、
さみしすぎるこころもよく感じられないまま、
彼女を自転車のうしろに乗せて、
ゆるいのぼりざかを、
声を合わせて、
よいしょよいしょと駆け上がる。


彼女がサラダを切っているとき、
ぼくは、
「根津権現裏」という小説を読んでいて、
(例の、芥川賞作家が心酔している、
おそろしくむごたらしい私小説だ)
やっぱりこころは寒くなり、
その寒さをじんと感じるために、
彼女とついさっきセックスをしたのかもしれない、
なんてしみじみしてしまう。
ラジオはJ-WAVEをつけっぱなし。
カレーが出来上がるまで、
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