overture/ねことら
とても深いところから
汲みあげられた夜
わたしの、ちいさな泡立ちが
その上皮をながれていく
ここにいれば、凍りのような
つきのひかりも遮ぎられるから
ただ、穏やかな浸透圧が
身を食んでゆくのに
ゆだねればいい
てさぐりで形状をたしかめていた
おずおずと、その部分を
開き、伸ばして
あっけなく壊した
わたしの指にからむ深い紅が
ゆっくりと、このみずのなかに散っていく
淡いオーロラのような
その、幾筋かを見送っている
なにもかもありふれて
さびしさはにがく、つづく
いつか、みじかい呼吸のひつような体は
冷えた朝の縁に、浮かびあがる
きずあとのない、白のほとりで
かつて在ったはずの邂逅を、くりかえすように
わたしは、再びそこで
息をしている
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