overture/ねことら
 





とても深いところから
汲みあげられた夜
わたしの、ちいさな泡立ちが
その上皮をながれていく

ここにいれば、凍りのような
つきのひかりも遮ぎられるから
ただ、穏やかな浸透圧が
身を食んでゆくのに
ゆだねればいい




てさぐりで形状をたしかめていた
おずおずと、その部分を
開き、伸ばして
あっけなく壊した

わたしの指にからむ深い紅が
ゆっくりと、このみずのなかに散っていく
淡いオーロラのような
その、幾筋かを見送っている




なにもかもありふれて
さびしさはにがく、つづく
いつか、みじかい呼吸のひつような体は
冷えた朝の縁に、浮かびあがる

きずあとのない、白のほとりで
かつて在ったはずの邂逅を、くりかえすように
わたしは、再びそこで
息をしている














戻る   Point(2)