水引草に風が立ち/yo-yo
雑草が覆いかぶさる細い道をゆく。
小川のそばに、水引草が咲いていた。
山の麓のさびしい村。24歳で夭折した詩人の夢が、いつも帰っていった。
その夢のほとりを歩いた。
小さなあかい花。見過ごしてしまいそうな花だった。
ぼくの夢に出てくることはないだろう。そんな目立たない花だ。
水引草に風が立ち
詩のことばが、風のように辺りをそよがせた。
帰っていったのは夢だったのだろうか、風だったのだろうか。
たよりなく夢の果てをさがした。
ぼくの夢は、まだ帰ってはゆかない。旅の途上にある。
行き止まりも、その先もない。はじめての道をたどってゆく。
小川の水は、濁るでもなく澄むでもなく、やさしい音をたてて流れていた。
活火山の山の肌を洗った水。溶岩の匂いがする。
夢は そのさきには もうゆかない
浅間山の麓でみじかく眠る。
きれぎれの夢のはざまに、水引草の栞をはさんだ。
* 引用の詩は、立原道造『のちのおもひに』
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