ある一瞬について/ゆえ
まただ、
瞳がすでに記憶している風景の、光の加減と影の伸び方。
上から重ねてぴったりと線と線が重なるみたいに同じ、私が私の半分を置いている場所。
流れていく。喧騒のさなかを私はすいすいと泳ぐことが出来る。呼吸の仕方ももう覚えたから、少しは歩きやすくなったのだ。
以前なら通り過ぎる映像の一つに過ぎなかった、今ははっきりとした輪郭と質量を持って、無音の力強さでもって私の意識をひきつける。
(万有引力、とひそかにつぶやく)
ゆるやかに顔を上げる。
予感を裏切らないようにそっと、期待が消えないようにすばやく。
合わさるのは一瞬、何の言葉もなく離れていく。潮が満ちるように消えていた喧騒が戻ってくる。私のすぐ近くで鳴っている。
足が歩き出す、固くてひんやりとした感触を踏みしめて速度を上げる。
私は永遠なんて信じない。
いつかはきっと終幕が降りてくる。でもその時までは、掴んでいたいのだ。
(去っていく前、)
(ほんの少しだけ微笑んでいた)
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