さくらぞめ/亜樹
 
 しばしば自分の読む小説中に現れる、出所の知れない引用文。
 物騒で物々しい、どこか哀しいその言い回しが僕は少し好きだった。



 言い出したのは、誰だろう。


***
 

「きっと、お馬鹿さんね」
「沙名ちゃん、あんね」
「だって、そうじゃない。この町だけで、どれだけ桜の木があると思うの?その一本一本の根元に死体が埋まってなんていて御覧なさいよ。大量殺人もいいところだわ」
 『猟奇』もつくわね、と可笑しそうに彼女は笑った。幼馴染の沙名は殆ど生まれたときから一緒にいるような仲ではあったけれど、彼女は自分と違って本を読むことを好まない。彼女にとって花は実際に見て愛で
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