くぼんだばあさん/不老産兄弟
結婚を来月にひかえた僕はその報告もかねて
今年で94になるミツエばあさんの見舞いに行った
案内されたのは3階のはしっこの相部屋
しわくちゃの顔たちが
ギロッといっせいにこっちを睨みつける
ところ狭しと並列された老人の中から
僕はいちばんくぼんだやつを選んだ
ばあさんは手足をシーツにこすりつけ
ぶつぶつとわけのわからない音を発していた
ああぁ
僕は待ちきれず
黒ずんだ耳元で結婚という言葉を何度も繰り返した
ああぁ
ばあさんはあいまいにうなずくと
しばらくとまったままこっちを向いていた
その目に涙が溜まっていくのがわかった
ばあさんの顔は大きくぼやける
僕も耐え切れず膝をついてシーツにひれ伏す
目を開けるとそこにはばあさんの足があった
僕はそのくぼんだ足をそっと手に取り
泣きながらそれをいやらしく舐めあげていた
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