赤い誘惑/伊織
 
研ぎ澄まされた五本の配列が
私を誘う
息を呑んで見惚れる


あの人の指の先端部は滑らかなカーブを描いて
心に刺さってしまった


ああ
その鮮やかな三日月たちを
どうか私の肌に突きたてて
例えばもっと柔らかい
鎖骨の上の皮膚に

爪をたてた

角ばった私の短いそれは
何の感覚も与えない
三日月
欲しいのは
つんと先の尖った感触



あの人は
氷の微笑みすら浮かべずに
首の裏側に
爪をたてる
ぷちり、
軽く血が滲む
そうして汚れてしまった指先を
私は丹念に舐めとり
あの人は何事もなかったかのように
ガラスのヤスリで爪を研ぐ



赤い
作られた記憶


三日月が私を狂わせる
今日もまた
シナリオ通りに
私は決して傷口の開かぬ爪をたてる
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