思い出し/電灯虫
 
停車した電車の速度は その潜在的速さの ほんの一部
駅間の距離も短いから なおのこと。
そんな速さで生じる 電車周りの気流は
その頬ざわりが 今頃の春を感じさせた。


線路沿いで機械による 野草の長さ調整が行われているから
気流に乗って あの独特の匂いがする。
小さい頃は 知らないままで そこの草の茎を折った。
折れたとこからは 汁は出ても 色はなかった。
でも 香った匂いは 植物の血の匂いだと思った。
今日 転んですりむいた擦り傷から 血がじわっと出た。
赤くて目立つけど 匂いがなく 
でも口の中だと 食べたことがないはずの 鉄だった。
そんな ちぐはぐは 
違い
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