鍵と人/
 
 アパートの鍵を失くしてしまって以来、人と会うたびに誰かが部屋を施錠する音が聞こえるようになった。その音はどんな音楽よりも耳に残るものだったが、少し存在感がありすぎるようにも思えた。角部屋の窓は、少しだけ嘘っぽい風を、飽きることなく送りこんでくる。


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 ここしばらくは外に出ていない。誰にも会わないので鍵はかかっていないが、誰も入っては来ないので、特に影響は無い。それでも何故だろう、「その音」が聞こえない日が続くと、恐怖にも似た、どす黒い気持ちが沸き起こって来るのだった。


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 やはり出かけるべきなのだろうか。誰かに会って、誰かに会って、誰かに会って。ただそれだけを
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