五月の童話/salco
 
女(め)

初七日を迎えて女は
入浴が億劫になった
それで勤めに出るのが億劫になり
一年半を家に籠った
洗わぬ頭を毛糸の帽子と
洗わぬ体を亡夫のコートに包み
駅前のATMへ出
食を買い込み家に戻る
朝はシリアルに牛乳を注ぎ
昼はヌードルに熱湯を注ぎ
愛咬も発語もない口をゆすがず
冷えたテレビを見つめて動かず
夜が更ければ埋もれて眠る
何故何故問うのはいつしか忘れた

家財を取られるまで
二年半をそうして暮らした
家屋を取られるまで
六年半をそうして暮らした
歯はもう七本
軋む膝を運んで今日も
簓女が町を行く
綿埃や紙片や糸屑、食べ滓や抜け毛
枯れ葉や虫の死骸や土、種子胞子を
頭の先から足の底までくっつけて
集塵しながら町を行く
悪臭を曳いて道を行く
垢のお面を着けて行く
無い物だけ有って行く
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