スカーレット/船田 仰
 
さよならスカーレット エイ・ケイ・エイいつかの独白
クレヨンで塗りつぶした画用紙をいくら引っ掻いても
月が転がり落ちることはない
ヘッドエイク
みえないものはみえない

いつか珈琲を飲みながら彼女が
「波のおとがするから、雨だ」とドアを見ようともせず言ったときには
こんなにもずっと波の音がしているとは思わなかった
巻貝を耳にあてたときの、あの
ねぇ静寂の意味をどうにかわたしのからだに

伝えて

両手をこころにあてて揺さぶる
こもった鈍い涼しい音がして
とりあえず / 迫りくるそのスピードさえ
それさえ
失ってしまった
エイ・ケイ・エイ いつかのみえない月
引っ張りだされることはない
いままでもこれからも

さよなら

のっけからこぼれ落ちているものたちと勝負するためには
たぶん両手が邪魔なのだと

スカーレット
ことばの道さえ失ってしまった





みえないものは みえない



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