鯉のぼり/蒸発王
 
鯉のぼりが

羨ましかった


『鯉のぼり』


我が家には
江戸時代から受け継ぐ
鯉のぼりがあった

もう骨董ものの古さなので
額に入れて飾るだけで
実際に吊るしたりはしない


和紙で作られた其れは
黒い真鯉の一匹だけで

染められた
黒鱗の一つ一つが
硬質な滲みをもって紙の上に染み出し
艶やかな隈どりの向こうに
どん と
描かれた瞳が
胸の中心を射るような

何か決意を感じる
そんな姿をしていた



そんな鯉のぼりを
祖父は大層気に入っていて

端午の節句に酔っぱらうと
決まって
幼い私にこんな話をした

 お
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