林道の途中で/こしごえ
 



蜻蜓(とんぼ)の眼鏡は言う
「得た、と思ったとたん、うしなっている」
であるから、はなから何ももっちゃいない
少年は、青年になっていた。誰もが年を取る
今は

眼鏡を直す指先でそっと静かに
借りているものを御返しする
雲になって降る時は
誰もがそ知らぬふりをする
桜はことしも咲いたかね、と

入道雲は ささやいた。
セロファンのうつむく気配に
素肌は白く眼にまぶしい
木陰の翳(かげ)りに風も無く
ひんやりみつめている

貫かれた
自恃(じじ)を
誰一人として嘲笑(あざわら)えない
嘲笑ったとしてもそれは

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