顔のないひと/三奈
 

その人には顔がなかった

ゆっくりと動く喉仏
見なくても分かる 嗤っている
高い位置から嗤っている
私の苦手な目をして
私の苦手な言葉を紡いでいる

その人には顔がなかった

顔なんていらなかった
見たくもなかった

だから消した
その目も 鼻も 口も

私はあなたをおばけにした
私はあなたをかおなしにした

だからもう大丈夫
次逢った時は その喉仏に
最上級の愛想笑いをプレゼントしよう

顔のない人も きっと嘲笑ってくれるでしょう

いつものように
鼻を鳴らしながら




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