夕暮れ/寒雪
 

手を伸ばせば近い
大きくなりすぎた夕陽が
染めあげた真紅の世界
家路を急ぐぼくは
ションベン臭い電信柱や
崩れ落ちそうな土塀や
いつの頃か実をつけなくなった
寂しげな柿の木や
いつもいつも
穴が開くほど見慣れてきた風景が
色づいて微妙に変わる中を
鬼に捕まらない速さで歩く
振り返ると
ぼくをぼくでなくしてしまう
悪意の微笑みが待っているようで
慄きをぐっとこらえる
角を曲がる時に
目に入った新品のカーブミラー
映っているぼくは
歪んで茹で上がって
いつも洗面台の前で見慣れた
だらしのないぼくとは違って見えた
見え方が変わっても
ぼくはぼく


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