踊り子トマト/魚屋スイソ
いた。もしあの花が人を喰う植物だったら、迷わず喰われにいくだろう。言いつけ通り声を押し殺して喘いでいるこの女や、すべてを諦めたように笑っていた夢の女よりも、美しい花だった。
赤子の拳ほどあったトマトがすべて膣内に収まる。女は失禁していた。おれは顔にかかったものを拭いながら、膣口からトマトのヘタを生やし未だ身体を顫動させ続けている女を見下ろしていた。まるで新しい臓器だった。トマトは子宮の傍でこれからも脈打つのだろう。そして女は、我が子に対するような愛情でそのトマトを慈しむに違いない。急にそれが憎らしく思えてきた。おれは袋の中に残ったトマトを掴んで女へ投げ付ける。女の額や頬や首筋に、胸や腹や太腿に、濡れた花が燃え付く。女は気を失っていた。浴室は静まり返っていた。雨は止んだのだろうか。おれは振りかざした腕を下ろし、その手に残った最後のトマトを見つめた。もう女はいない。おれは湖には沈まない。トマトを両の掌で包み込み、潰し、その中に顔を埋める。死んだ踊り子が、羽ばたくように回転している。
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