踊り子トマト/魚屋スイソ
 
 手術室を溶かしたような色の、底の見えない湖へ知らない女と入水する夢をみていた。泳ぐつもりだったのか溺れるためだったのかはわからないが、女は幸せそうな顔をしていて、おれはそれを見ていたくないがために、水面に浮かぶ植物の死骸が回転するのをずっと眺めていたことを覚えている。岸に群生している花だろう。水に濡れ、腐敗しかけてはいるが、踊り子のような花弁でおれを見つめ返している姿は生きているそれよりも凛々しい。そのあと女とどうなったかは覚えていない。二人で沈んだのだろうか。水面の花は、温かい動物の皮を剥いだときに見える肉と血の色をしていた。
 むき出しの水道管と女の首輪とをつなぐ鎖の音で目がさめる。外は雨
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