【春は自転車に乗って】/つむじまがり
真っ白だった 目を閉じていなければ
真っ暗だった 目を開けていなければ
けれど解っていた 春が来ていることは
春は名のみの風の寒さを言い訳に
知らないふりをしていた
気づかないふりをしていた
森のクマが 眠りから覚めて歩き出そうと
土から出た虫が 枝の先で羽を振るわせようと
私にはまだ 春を受け入れることが出来なかった
自転車には砂埃が積もっていた
空気も抜けていた
蜘蛛が入念に巣を作っていた
そっと埃をふき取ると雑巾が汚れた
春の光の中で それは
あたかも冬の残骸のように見えた
今 ペダルを回し 走り出す
現実はいつだって早めにやって来る
目を閉じようと 目を開けようと
飛び込んでしまおうか 逃げるくらいなら
懐深く飛び込んで 突き抜けて そうして
何事もなかったかのように こう言うのだ
真っ白だった 目を閉じていなければ
真っ暗だった 目を開けていなければ
けれど解っていた 春が来ていることは
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