聖域/salco
葉は聞きたくもないであろう義姉は
俯けていた顔を上げると「来てくれて、迷惑かけてね」と
焦点のない微笑を浮かべ
眼を閉じ従兄と額を合わせて動かなくなった
メモ魔の従兄は
書き留める事で理性にしがみついているようで
ちいさな手帳に次男のバイタルを逐一記録しているのだった
それはもはや言葉を発しない息子の生でもあった
80後半を微動している脳圧が100を越えたらまずいのだと
それは即ち脳死を意味すると 目を泳がせながら説明してくれた
ICUの最奥で
頭に包帯を巻かれた子は片目を開けていた
瞬きしない目尻から涙を流し虚空を見ている
去年より精悍な面立ちの左目には畳んだガーゼ
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