種屋/山人
 
 その店はあった。
 丘の上にポツリと立ち、遠く工場の白い煙がもくもくたなびいている。小さな木製の看板に無造作に書かれた、種屋、の文字、周りはトタン板で覆われ、回りには見たこともない草が生えている。奇妙な芋虫がずるずると這い回っており、そこにはおちょくったようなカラス達がのそのそと動き回り、夥しい数の芋虫を啄ばんでいる。
 怠惰を発散させるような午後の陽射しは重い。そんな陽射しが訪れ始めると、客が動き始める。客はごく普通の人に見えた。
 客が店に入ると、中からひらひらした店主が出てきて、それぞれに応対を始めた。
 何の種なんだろう、店に入ると種などどこにも売られていなかった。
 ガラスの
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