硝子は大人になる前に散る/木屋 亞万
 
生まれたてのガラスは
存在しないかのように美しかった
内と外を隔てる境界なんて
本当は存在しないものなのだと
透明な身体で物語っていた
ガラスの魔法は少しずつ
雨に触れて解けていく

水滴の重みでは鍵盤は響かない
庭先のおもちゃのピアノは
雨にさらされながら静かに濡れていた
その閉ざされたまつげの奥で
幼い指との記憶を探す
しどろもどろの猫踏んじゃった
きらきらぼしは雲に隠れる
すべてが今は雨音の中

濡れたアスファルトは少しだけ輝く
地上を歩く人は気づかない
かすかな光を放っている
空を飛ぶ小さな鳥だけが
そのことに気がついて
誰かにそのことを伝えたく
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