スワン/田無
今朝、傷ついた白鳥を見た。
その体にはコールタールのようなものがへばりつき、
身動きが取れないようだった。
遠巻きに五、六羽の白鳥が心配そうに彼を眺めていた。
彼の体の、どろどろにこびりついた粘着質のかたまりの中から
所々に血のようなものが滲んでいた。
白鳥は動かなかった。
その姿は、間近に迫った死を受け容れているかのように見えた。
彼を眺めていた最後の一羽も、一瞬なにか言いたげに立ち止まったが、
立ち去りつつある残りの白鳥に合流して、去って行った。
僕は、どうにかして彼を助けたかった。
今すぐにでも彼を覆っている全ての悪意を洗い流してやりたかった。
でも、彼のいる場所まで泳いで行ってそれらを洗い流すという
労力を惜しんで、結局、ただ、彼を見ていた。
家路についた僕は、シャワーを浴びて、いつものように闇に潜った。
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