ある春の夕暮れ/ぎよ
 
春の夕闇はエロティックなにおいがする。アブサンひっかけ商店街を疾走すれば、ゴッホのおじさんが猛スピードで追いかけてくる。「パイプが吸いたい、パイプが吸いたい!」「ごめんなさい、パイプはないの、おじさん。シガレットならあるよ」ぼくはポケットからぺしゃんこになったジタンの箱を取り出し、一本差し出す。するとおじさん消えてしまう。空では一番星が巨大な渦を巻いている。
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