蝶の鏡をもつひと/こしごえ
うららかな日和の空を
しっとりと羽化した蝶は飛び去ってゆく
音も無く今の所
無音を聴いて浮彫にする
みずからの姿を
飛び去ったそよ風に映す
風光る風の色
沈黙の兆しは遠雷を呼びつづける
その日、ひきよせられる雨後の日差し
だれもいない草原で鏡を覗くと
ぬれた千草がつやつやと風にかわいてゆく
みんな去ってしまったあとに
のこる物事は底が見えないくらい深呼吸する
独りきりを選んだのだから遠いさ
大地も大空もほがらかに
わたしの鏡は透きとおっている
御存知でしょうね
いつだって 世界の裏と表は
ひっくりかえる
そうです。ふりかえることはあって
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