嘘だらけの夜に願うのはそれだけだ/智鶴
忘れた筈の歌を覚えていた
一斉に点滅を始める交差点の信号と
無表情なクラクション
一瞬の浮遊から引き戻されて
ステレオから流れる本当の
魅力なんてない
満たされているこの夜は
アルコールの匂いと
噛み砕いたナッツの湿度
僕に孤独を覚えさせるのにはあまりに辛辣で
そして嘘臭い(眩暈がし始める程に)
二重に歪んだ窓の外に
近付いてくるサイレンと
攻撃的な二色の明滅
生温いコンクリートには
生温い生命が打ち捨てられていて
左右には何もなかったかのように
点滅を始める冷たい信号
まるで深海魚のような眼をして
僕を取り囲むペシミストの群れ
「今さら
[次のページ]
戻る 編 削 Point(2)