夜ノ目/かいぶつ
れた小さな矢印だけだった
↓
私は錯乱していた
そして私の視覚への働きかけは
こんな落書きひとつに支配されてしまった
私は立ち上がり
矢印が指す方向へ走り出した
乗客達は相変わらず壁に顔を向け
表情を見せてはくれなかった
この狭い空間でこれだけ騒ぎ立てれば
一人ぐらい怪訝そうな表情で
私に一瞥をくれても良いのではないかと思ったが
誰一人としてそんな者はいなかった
車両から車両へと助けを乞うかのように走った
列車の揺れに足を取られまいと必死になりながら
最後尾の車両へやっとの思いで辿り着き
乗務員室の扉に手をかけた
だが扉は堅固に鍵で閉ざされてい
[次のページ]
戻る 編 削 Point(2)