あの子の愛は/佐古
 
あの子の愛は

呼ばれたいなまえがある。ほしいなまえがある。でももうわかっているだろう、語りかけることばは進化しないのに、本質は先を行く。それをあの子はゆるしてくれる?

――いいえ、いいえ、ごめんなさい、ごめんなさい。わかっている。この贖罪にお互い、手出しができなくなったのだ。訣別などのぞんでいないのに、もうそれしか手段を知らない。憎まずにいられる手段を。
憎むなんてできないこと、わかっているのに。



あの子の愛は
うつくしい流線、偲ばれる太古、あの子の傍の、あの子を造る生身。わたしはそれをうらやましいとおもうけれど、それ以上に怖いと言って、あの子をなくす。あの子の理想のわたしをなくす。




内側は流動しても、まだ繕えるくちびるを、紙一重のまばたきで。この骨がくだけるまで。

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