朧月夜/モリー
 
地に立つ生には背負うものが重すぎる

思考の止まった生卵を
無表情な月が唆す
いや全くその通りだと
小さく頷き、動悸とめまいに身を投げた

母が、母が、
重たい私を水銀の泉から引き摺りだして
凍った四肢に手を当てる
温かさにいっそう、私は溺れた

ひどく現実味の薄れた
淡い世界に住む私を
他がどれほど喧しいか
暫らくは忘れてみろと、祖父が連れ出す
文句もままならないのに、と白い靴をはいた

風がやわく吹き
揺らぐ落日は既知の色に大気を染める
窓越しでは体感出来ない気配の多さ
この美しい菜の花畑を
私は消していたのか
此処も煩いよ、と泣けば
君が一番五月蝿いよ、と質量のある手が髪を撫でた

浅はかだと嘲笑されても
確かに、消えたいと思った一瞬があった
風が吹けば飛ばされよう、だとか
桶屋も泣けば良い、だとか

祖父は隣で得意の口笛を聞かせる
私は調子を合わせて唄う
帰ったら母にお礼を言おう
孤独だけはまだ背負っていないから

月はもうこんなに笑っている
祖父の手もやはり、ただ温かい
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